レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

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宇宙大好きキッズと大人どちらも必見!

『宇宙』は今も昔もレゴ(R)不動の人気テーマ。今回はレゴ(R)宇宙服ビルダーであり、実際にNASAの宇宙開発に携わるお仕事をされている現役エンジニアの新井達也さんにご寄稿いただいた。

自作のレゴ(R)宇宙服を用いた実際の宇宙服についての説明、ビルド時の苦労話など非常に興味深い内容なのでキッズも大人も必読!

新井達也さんプロフィール

東京大学工学部航空宇宙工学科(学士、修士)、米国マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科(博士)を卒業。

その後医療機器メーカーを経て、現在テキサス州のオーシャニアリング社宇宙システム部門に所属し生命維持装置の開発に携わっている。

それではためになって面白い宇宙服の話スタート!

レゴ(R)で宇宙服を紹介

こんにちは、キーラン@スタッズ(@enjoylgst)フォロワーの新井(@bioastronautics)と申します。現在、アメリカのテキサス州ヒューストンで宇宙服や宇宙船内用の生命維持装置を開発する仕事をしています。

人類が最後に月を歩いた1972年のアポロ17号以来、NASAは月に戻る計画 (アルテミス計画) を進めています。2024年かそれ以降に月面歩行、と言われていますが、それまで待てない!と思い、アルテミス計画用の新型宇宙服をレゴ(R)で作りました。

今年始めにキーランさんのウェブサイトに出会い、今回、自作レゴ(R)を通じて宇宙服を記事でご紹介させて頂けることになりました。腕利きで目も肥えたフォロワーの皆さんに拙作をお見せするのは緊張しますが、極限環境で人間をサポートするための宇宙服にはどんな技術が使われているのかなど、少しでも興味を持って頂ければ幸いです。

宇宙服概要

宇宙服は、宇宙飛行士を真空、熱などの極限環境から一定時間守るために作られています。

例えば1時間で250キロカロリー消費する作業を8時間行うとして、それに必要な酸素を供給し、二酸化炭素を除去し、適切な温度、湿度を保つ、といった設計要求があります。

レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

レゴ(R)版アルテミス宇宙服(左)と、本物(右:記者会見用)アメリカ国旗の色がちりばめられていますが、実際に月で使う時は熱制御しやすい白基調だと思われます。

アルテミス世代宇宙服紹介記者会見(英語)

宇宙服は大きく分けて、人が着るいわゆる「服」の部分である与圧部と、生命維持に必要な装置が入っている「リュック」から成っています。

与圧部は地球の空気と違い、圧力は約3割、成分はほぼ100%酸素です。圧力を低く保つのは、真空の宇宙でパンパンに膨れ上がった風船状態になるのを防ぎ、指や腕、膝などの関節を曲げやすくするためです。

レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

レゴ(R)宇宙服も関節を曲げてポーズを取ることができます。サタデーナイトフィーバー世代ではないのですが。

宇宙飛行士は宇宙服を着て訓練をしますが、無重力や月の重力を模擬するために、巨大なプールの中で浮力を調節して行います。

生命維持装置

レゴ(R)の宇宙服にもあります背中のリュック内の生命維持装置の各コンポーネントは、それぞれご覧のようにマイクロビルドになっています。形や配置はNASAの論文に則って作りました。

レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

アルテミス宇宙服の生命維持装置外観。本物同様、所狭しとぎっしりすし詰め状態です。

酸素ボンベは2つ入っており、レギュレータが宇宙服の圧力を調節、そして換気扇が酸素を循環させています。

酸素ボンベと換気扇

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圧力レギュレータ

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右図は Campbell et al., “Oxygen Compatibility and Challenge Testing of the Portable Life Support System Variable Oxygen Regulator for the Advanced Extravehicular Mobility Unit”, ICES-2017-369より(PDF)

酸素供給と同様に生理学的に重要なのは二酸化炭素の除去です。除去装置の中には二酸化炭素を吸着してくれる細かいビーズが2部屋にそれぞれ沢山入っています。

1部屋のビーズが二酸化炭素で一杯になると、今度はビーズを宇宙の真空に晒して、吸着した二酸化炭素を放出させることでビーズを再生することができます。その間、別の部屋のビーズが宇宙服内の二酸化炭素を吸着する、という形で、2部屋が交代で吸着、再生を繰り返す仕組みです。

二酸化炭素除去装置

角度のついた配管はテクニックパーツで。

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右図は Chullen et al., “Rapid Cycle Amine 3.0 System Development”, ICES-2015-313より(PDF)

ビーズを真空にさらす際、酸素も若干逃げてしまいます。二酸化炭素の除去によっても宇宙服の圧力は少し下がりますし、更にどうしても宇宙服の関節などからも多少漏れるので、常に酸素ボンベ (先述) から損失分の圧力が補われています。

こういった装置が詰まったリュックの正式名はExploration Portable Life Support System (xPLSS、エックスプルス) と呼ばれていますが、このリュック全体がドア (ハッチ) 、つまり宇宙服の入り口となっています。

現行のNASAの宇宙服が上半身と下半身に分かれているのと違い、月面を歩くアルテミス計画の宇宙服は上下つなぎの構造で、背中からスッポリ入るスタイルです (ロシアのオーランスーツと同様)。レゴ(R)でも、上半身 (トルソ) は本物同様に空洞になっています。

レゴ(R)宇宙服の空洞の理由は、重さにもあります。典型的ないわるゆメカのレゴ(R)と違い、船外活動用の宇宙服は頭でっかちで、トルソも大きいので、普通に中を詰めて作ると重くなってしまいます。

足の関節の負担を減らすためにも、上半身をできるだけ軽い空洞に作らなければならず、またリュックも角度を付けて (重心を体の中心寄りにするため) 備え付けられているので、曲線の多さも含めて、トルソの作成は苦労しました。

ハッチ開閉、生命維持装置などの外観

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レゴ(R)で再現された上半身(トルソ)改良を重ねて、ギュッと身のしまった、気密性のありそうな感じになりましたでしょうか。ボールジョイント、ヒンジ、テクニックパーツを駆使して丈夫に仕上げました。

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体温の調節は、宇宙服下着が関わっています。宇宙服に入る前に着る下着は、腕は長袖、足はくるぶしまであります。このタイツの表面に、冷却水が流れるチューブが張り巡らされています。宇宙飛行士の運動による発熱、電子機器の発熱など、宇宙では何かと排熱が必要です。

宇宙下着

冷却チューブが張り巡らされている。参考URL1:NASA参考URL2:Quora

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冷却水の温度は水の蒸発 (つまり水を消費します) によって下げられています。水を蒸発させる装置はSpacesuit Water Membrane Evaporator (SWME、スウィミ) と呼ばれ、多数のストロー状の極小管(中空糸、交換膜とも呼ばれます) 内を水が走るのですが、ストローには気体しか通れない細かい穴が開いていて、水が水蒸気として出ていく仕組みになっています。

SWMEで導入されたこの技術は、既に世の中で広く使われていて、水を蒸発させるだけでなく、二酸化炭素を飲み物に注入したり、ガスから不純物を取り除くなど、様々な分野で使われています。

SWME内の膜交換モジュール

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Stroming and Newman., “Critical Review of Thermal Management Technologies for Portable Life Support Systems”, ICES-2019-338(PDF)

SWME マイクロビルドは外側の箱を再現。

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与圧部

レゴ(R)宇宙服全体のサイズは本物の約7分の1です。ヘルメットのサイズ (6×6か8×8のドーム)、生命維持装置の詳細を載せられるサイズ、といった制約の中でこの比率に落ち着きました。

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レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

レゴ(R)ヘルメットは透明バージョン(95198)と、開閉可能なバイザーバージョン (88067と 88068、レゴ(R)セット7592 Construct-a-Buzzより、色違い) から選べます。

二種類のヘルメットスタイル

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レゴ(R)宇宙服の腰のベアリングはテクニックパーツで再現しました。中にはターンテーブル(18938、18939) が入っていて、360°回ります。

股関節はNinjagoのセット70615を参考に、ジョイントディスク(44224、44225)と複数のジョイントボール(47455、48170)で作りました。肩、肘、手首、指、股関節、膝、足首も動きます。

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ミニフィグ

本セット案には、ミニフィグも付属されています。前回のアポロ計画では、月を歩いたのは白人男性12人でしたが、今回はより多様なバックグラウンドを持った宇宙飛行士が行く予定ですので、付属のミニフィグも肌の色、性別を幅広くカバーしています。LEGOグループにはぜひクレータープレートの復活も検討して頂きたいです!

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初の女性宇宙飛行士、そしてアポロ以来の次の男性宇宙飛行士による探査。ちなみに2024年という当初の目標からはちょっと遅れそうだとか。

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終わりに

レゴ(R)で宇宙服を作って、本業のエンジニアの仕事との共通点も多々見つかりました。例えばパーツの調達。

Lego.com(※)やBricklink (キーランさんの記事参照) からパーツを買う時に、複数の店で買うと送料がかさむので、できるだけ同じ店から買う、ちょうどいい色・形がないので似たもので我慢、なぜかメジャーなパーツがその店に無いので、小さいパーツ複数で代用、パーツの到着を待っている間によりよい案が見つかって、買ったパーツが要らなくなる、存在を知らかった便利なパーツを偶然知って、設計が一気に変わるなど…妥協点を見つけたり、急にブレイクスルーが起きたりする点はエンジニアの仕事に似ていますね。

※編集部注記:日本からは米国のlego.comでパーツを購入することはできない。

構造に関しては、丈夫さと見た目の妥協点を探るのも大事ですが、ポーズを取らせたり、立たせたりするには、上半身の軽量化が重要です。いかに軽くするかは宇宙服の設計と共通します。

重心や丈夫さなどは、建物系には無い、人型ならではのチャレンジで、やりがいがあります。StudioなどCADソフトを使っていては限界があり、やはり実際に組み立ててみるべし、というのもエンジニアリングそのものです。

レゴ(R)宇宙服で生命維持装置について学ぼう!現役エンジニアビルダーが楽しく徹底解説

宇宙服は、考えられる中で最小の宇宙船地球号、ともいわれています。酸素の供給、温度湿度の調節、といった人間に欠かせない地球の恵みを(8時間だけ、1人にだけですが) もたらしてくれる、関節付きの宇宙船。

一見、宇宙開発は非現実的な夢物語かもしれませんが、例えば宇宙服など実際は泥臭く地に足の着いた工学、生理学、科学の融合した世界で、温暖化の原因と言われる二酸化炭素除去など、地球上の問題解決にも役立つ技術が日々開発されています。

2024年またはそれ以降、人類が月に戻ります。レゴ(R)を通して歴史的な月面探査を祝いましょう!

ということで作ったレゴ(R)のアルテミス宇宙服(着陸予定年に合わせて2024ピース)。レゴ(R)アイデアにエントリーしています。レゴ(R)の国際宇宙ステーションやアポロ月面着陸機、スペースシャトルなどと並んで、細部まで精巧に作り上げられたアルテミス宇宙服もぜひ。

もし作ってみたい、遊んでみたいと思って頂けましたら、製品化に向けてぜひとも投票をお願い致します!

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