こんにちは、スタッズフォロワーの新井です。
今年は日本人宇宙飛行士の宇宙ステーション滞在、月の無人探査などが予定されていて、日本の宇宙開発も元気です。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が13年ぶりに宇宙飛行士を募集し、4千人以上が応募したと言われていますが、2022 年は、レゴ宇宙シリーズも活気を帯びています。
NASAアルテミス計画関連セット複数発売
ミニフィグシリーズ 22 の紫クラシックスペーストルソ、NASA アルテミス計画にインスパイアされたセット(宇宙ステーション 60349、月面探査基地 60350、ローバー 60348、オリビアの宇宙アカデミー 41713)などが次々とリリースされ、アルテミステーマのレゴ(R)セットはクラシックスペースの再来とも言われ、レゴ(R)ファンメディアによるレビューが複数なされました。
ここでは視点を変えて、宇宙服、ステーションの生命維持装置エンジニアの観点から、月面基地 60350 をレビューしてみたいと思います。マニアックな内容にぜひお付き合いください。
ミニフィギュアのサイズ感
まずミニフィグサイズのサイズ感から。仮に宇宙飛行士の身長を180cmとすると、ミニフィグ1体の身長は約 4cm(約5スタッド)なので、レゴ(R)セットは1:45スケールとします。参考URL:Quora(英語)
船外活動(月面探査)
生命維持装置
ダークアズール色のカッコいい宇宙服。
背中のバックパックには生命維持装置が入っています。実際の宇宙服と生命維持装置のサイズ感からすると、かなりスリムですが、このような小型化は十分可能だと思います。
1回の月面活動時間を短くして、酸素ボンベ、二酸化炭素吸着装置などなどのサイズを小さくすれば、何とか小さく収められる…はず。
クラシックスペースのエアタンクでなく、リュックのスタイルを採用したのは、酸素供給以外の機能があるということを認識している証拠ではないでしょうか。
プリブリージング
地球の空気は主に窒素と酸素でできていますが、宇宙服を同じ1気圧の空気で満たしてしまうと、パンパンに膨れ上がって関節を曲げるのだけでも大変で、仕事になりません。そこで宇宙服の圧力は大気圧の3割程度にしています。
人間に必要な酸素量は変わりませんから、減圧した宇宙服内は最低ライン以上の酸素量を保つために 100%酸素にします。
問題は、宇宙服に入る前に普通の空気を吸っていた場合、血液内にも窒素が含まれていて、そのまま減圧された環境に入ると、血中の窒素が泡になって現れ、関節にたまって痛みを伴います。
それを防ぐためにゆっくり窒素を肺から吐き出す「プリブリージング」という時間を設ける必要があります。
60350にはプリブリージングするエアロックの小部屋が見当たりません。おそらく、宇宙服を着た後、1モジュールを隔離の上、減圧してそこでプリブリージングして、月面に出るのでしょう。
減圧の際は、全て外に空気を捨てるともったいないので、コンプレッサでモジュールの空気をどこかに移動し圧縮して貯めておくのが効率的です。
電力
月面ステーション全体で、2×4タイルまたはそれ相当の太陽電池が8枚あります。1枚は1.6 cm x 3.2 cm = 5.12 cm2 、これは実際のサイズ(1:45スケール)に換算すると5.12 x 452 = 10368 cm2 = 約1m2ですから、合計8m2。
太陽光は地球の低軌道と同じ 1.37 kW/m2として、変換効率を 20%とすると8 x 1.37 x 20% = 2.2 kW。ただ、太陽光が常に理想的に垂直に入ってくる訳ではないですし、基地の場所によっては日陰の時間もあります。
仮に30°の角度で太陽光が太陽電池に入射して、更にひと月の半分が日陰とすると、理想の 1/4 の発電能力になるので、年間の発電量は 2.2 kW x 24 hr x 365 x25% = 4818 kWhr。4人家族の年間消費電力は 5500kWhr。参考URL:エネピ
ですから、節約すれば6人で暮らせる電力はありそうです。陰にならないように4枚の太陽電池は角度も変えられるようですし。
月の砂をかぶって発電量が減らないように気を付ける必要はあります。ローバーは車庫から出る際は砂を巻き上げないようゆっくり出た方がいいですね。
月の極地に基地を設けて、太陽が常に見える環境であれば、更なる発電が可能です。
ドローン
ドローンは4基の小型ノズルを使って高度や姿勢を制御するようです。
問題は、燃料の噴射で月の砂が舞い上がってしまうこと。月の砂は鋭利で、静電気を帯びて服にこびりつく性質があるので、太陽電池だけでなく、宇宙服の掃除も大変。ドローンは基地や宇宙飛行士の周辺で使わない方がよいでしょう (ロケットも)。
植物
1人当たりが必要な畑(野菜と果物)の面積は 18.6 平方メートル(200 平方フィート)といわれています。参考URL:the spruce(英語)
植物が栽培されているドームエリアの直径 14 スタッズ(11.2cm)の半球とすると、ドーム床面積は 98.5 cm2 。1:45 スケールを考慮すると、現実世界では 98.5 x 452 = 約 20 m2。
仮にドーム内がすべて畑としても、1人分で精一杯。ドーム内の植物は、主に研究用かと思われます。
月の岩を使用
メインの建物の背後が月の岩なのがユニーク。
磁場のない月面では宇宙放射線が問題になりますが、水をバリアに使うという方法の他に、洞窟を見つけてそこに基地を作る、という案もあります。
岩ブロックの使用は、そういったNASAの資材現地調達アイデアに準拠しているかと思われます。
この月面基地は快適か?
快適な空間は個人差がありますが、NASAの規格で、宇宙での滞在期間によって、宇宙飛行士1人当たりの空間体積というものが決まっています。参考URL:NASA(英語)
NASA-STD-3000 90 より
このNASAの規格によれば、たとえば1ヶ月間、月に快適に滞在する場合は約 11m3の居住体積が必要になります(図の”Optimal”)。宇宙飛行士の身長は様々ですが(有名な写真は 2002年のスペースシャトルコロンビアのSTS-109ミッション、Altman飛行士とCurrie飛行士の身長差)参考URL:NASA(英語)
1体当たりに必要な居住体積11m3(11 x 106 cm3) はレゴ(R)シティの世界では 11 x 106 cm3/453 =120.7 cm3 に縮小されます。
早速、月面基地の居住体積を見ていきましょう。
最も目に付くドームエリア。直径 11.2 cm の半球内の体積(家具除く) は 368cm3 (33.5 m3)です。
メインのドームの建物に連結されているモジュール (向かって左に2つ、右に1つ、計
3つ)の内部体積はそれぞれ約 6×6 スタッズ(22.9cm2) x 5 ブリック(4.8cm) = 110 cm3 なので計 330 cm3 (30.1 m3)。
ドームと合わせて居住体積は合計 698 cm3 (63.6 m3)。ミニフィグは 6 体なので、1体当たり 116 cm3 (10.6 m3) の体積が!なんと、ほぼ 120.7cm3 (11 m3)です。
多少快適さを犠牲にすると (図の”Performance Limit”) 半永久的に暮らして苦にならない体積。
これはNASAから助言を受けてレゴグループのデザイナーが組み込んだのか、それとも偶然なのか…?
ちなみに国土交通省の「健康で文化的な住居生活を送るために必要不可欠な面積」とし
ているデータは 25m2 とのこと。参考URL:kadode
日本の天井の高さは最近は 240cm くらいなので、体積は 25m2x2.4m=60m3。
NASA の1人当たり 11m3 の空間ということは、月面探査基地 60350 で暮らす場合、1人暮らしの1LDKに5人で暮らすイメージでしょうか。ちょっと窮屈かも。
無重力なら、床も天井も壁も同じようなものなので、1LDK も意外に広く感じるかもしれませんが、月面は無重力ではないため、床面積に支配されるので、狭く感じるかも。
レゴグループ内に詳しい人がいるのか、NASAから助言をもらったのか定かではありませんが、居住空間、発電量など、かなりリアルであることがわかりました。
ちなみに、レゴ(R)アイデアに挑戦中の拙作「Live from Space! Lives of Astronauts」は月面探査基地60350と連結可能です。
24×8 スタッズ x8 ブリック= 19.1 cm x 6.4cm x 7.7 cm = 941 cm3 (85 m3) の空間を増築できます。
トイレ、睡眠空間、倉庫、水再生装置、空気清浄機などが詰め込まれています。レゴ(R)アイデアにてぜひ投票お願いします!
LIVE FROM SPACE! LIVES OF ASTRONAUTS
レゴ(R)アイデアで「Live from Space! Lives of Astronauts」をチェック
レゴ®LEGO® シティ 月面探査基地 60350
今回レビューしたセット
ドーム型の月面探査基地、月着陸船、スカイクレーン・ドローン、バイパー月面探査車、月面バギーの組み立てに必要なパーツと、宇宙飛行士のミニフィギュア6体が付属
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